前十字靭帯断裂(損傷)

前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)の断裂は、スポーツをしている方が負いやすい怪我の一つです。運動中に突然膝の中の組織が「ブチッ」と切れる感覚を覚え、立ち上がれないほどの強烈な痛みがあります。一度切れた靭帯は自然に治癒することはなく、再び動けるようになるには再建手術が必要です。
手術によって競技復帰はかないますが、適切な手術方法を選択し、しっかりリハビリを受けなければなりません。時間と努力が必要なため、ご自身の怪我についての理解を深めることが重要です。
本記事では前十字靭帯断裂という怪我の内容と治療について解説します。
前十字靭帯とは
前十字靭帯は膝の中にある二つの靭帯のうちの一つです。ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)の後方から、すねの骨である脛骨(けいこつ)の前方についています。前十字靭帯と交差するように、大腿骨の前方から脛骨の後方についているのが後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)です。
まずは、前十字靭帯の役割について説明します。
前十字靭帯の役割
前十字靭帯には、主に2つの役割があります。その内容と動きの例は以下のとおりです。
前十字靭帯の役割 | 役割の内容説明 | 動きの例 |
---|---|---|
膝の前後の動きを安定させる | 脛骨が大腿骨に対して前に出すぎないよう制御する | 走ったり、ジャンプして着地したりするときに膝を支える |
膝が自然な範囲で回旋するのを助ける | 膝をひねるときに過度に回旋しないように支える | サッカーやバスケットボールなどで急に方向転換をしても膝をスムーズに動かせるようにする |
前十字靭帯断裂(損傷)とは

前十字靭帯が何らかの原因で切れてしまうのが、前十字靭帯断裂です。実際に受傷した際には「ブツッ」などという断裂音が聞こえることもあります。
前十字靭帯の断裂が起こると、走ったり歩いたりしているときに急に膝が「ガクッ」となったり、歩くときに痛みを感じたりするでしょう。膝の関節内で出血が起こり、痛みや腫れ、熱感を覚えることもあります。
前十字靭帯断裂(損傷)の原因
前十字靭帯の損傷は、強く膝をねじったり、必要以上に膝が伸びたりすることで起こります。
具体的なよくある原因としては、次のようなことが挙げられます。
前十字靭帯断裂(損傷)の原因
- 急な方向転換
サッカーやバスケットボールをする方に多い原因です。急に方向転換をしたり、止まったりしたことで、前十字靭帯に大きな負荷がかかり断裂することがあります。 - ジャンプした後の着地
バスケットボールやバレーボールなどで、着地の際に膝が不安定な角度に曲がることで前十字靭帯が傷つきます。 - 他の人との衝突
ラグビーやフットボールなどでは、他の選手とぶつかり、膝に大きな負荷がかかることで前十字靭帯が切れることがあります。 - 過度な膝のひねり
スキーや体操などでよく見られる原因です。膝を過度にひねることで、断裂する場合があります。
前十字靭帯断裂(損傷)の症状

前十字靭帯の断裂が起こると、主に次のような症状が見られます。
前十字靭帯断裂(損傷)による症状
- 激しい痛み
受傷直後に起きます。痛みの程度は人によりますが、歩いたり立ったりできないほど強く痛む場合もあります - 膝の腫れ
断裂による出血や炎症が原因で、受傷直後に起こります。どんどん悪化し、数時間でパンパンに腫れ上がってしまうこともあります。 - 膝崩れ
歩行中などに、膝がガクッと外れるように力が入らなくなることです。前十字靭帯の断裂によって膝が安定性を失うことで起こります。 - 膝の曲げ伸ばしができない
痛みや腫れが強いために、膝を自由に動かせなくなることで起こります。
前十字靭帯断裂(損傷)を放置すると
前十字靭帯の断裂が起こった場合、必ず医師による診察を受けましょう。
損傷が部分的なもので済んだり、あまり痛まなかったりする場合でも必ず受診してください。
傷ついたまま放置し、膝が不安定な状態で、生活や運動を続けると、他の部分に余計な負担がかかるからです。
特に、半月板や軟骨が損傷すれば、変形性膝関節症が起こり得ます。痛みや腫れなどが続き、運動時以外の日常生活においても支障が出るでしょう。
階段の昇り降りや長時間立ち姿勢でいるのが辛くなるなど、これまで難なくできていたことが難しくなります。時間が経過するほど関節の変形が進みやすくなるため、前十字靭帯の断裂を起こしてしまったら、できる限り早く医師に治療してもらいましょう。
前十字靭帯断裂(損傷)の診断と検査
前十字靭帯断裂の診断は触診とMRI検査によって行います。
触診では次のようなテストを行い、靭帯が機能しているかを確認します。
触診によるテスト
ラックマンテスト
膝を30度くらいに曲げた状態で、医師が片手で大腿骨を抑え、すねを前方に引っ張ります。
このとき、異常にすねが動けば前十字靭帯が断裂している可能性が高いと判断されます。
前方引き出しテスト
膝を90度くらいに曲げた状態で、すねを前方に引き出します。
異常なほどすねが動く場合は、前十字靭帯が断裂していると判断できます。「KT2000」という機械で計測する場合もあります。
ピボットシフトテスト
膝関節を曲げながら、医師が膝をゆっくり内側に回転させ、足首を外側に引っ張ります。
前十字断裂が起こっていると、膝を20度ほど曲げたあたりで、脛骨が脱臼状態になります。
さらに、靭帯の他にも半月板や軟骨など他の組織の状況なども確かめるためMRI検査を行います。
前十字靭帯断裂(損傷)の治療・手術
前十字靭帯を損傷すると、自然治癒はしません。必ず医師による治療が必要です。
特に完全に断裂してしまった方やスポーツをされる方、膝の不安定感が強い方の場合は、再建手術によって靭帯を作り直すことになるでしょう。
一方、高齢の方や普段あまり運動しない方、負傷の程度が軽い方などは装具療法やリハビリによって治療をする場合もあります。
症状が軽減する可能性はありますが、完治は望めません。膝の不具合とうまく付き合いながら生活することになります。
前十字靭帯再建術について
前十字靭帯は再生せず、切れた部分を繋ぎ合わせて修復することも極めて困難です。
そのため、別の部位から組織を移植して、新しく靭帯を作り直す再建手術を行うことになります。
移植する主な部位としては、太ももの裏側であるハムストリングスの腱や、膝の内側にある膝屈筋腱(ひざくっきんけん)などが一般的です。どこの腱を採用するかは手術の方法によって異なります。
また、手術は基本的に内視鏡によって行いますが、方法によって移植腱の設置・固定方法が違います。
当院では、スポーツの種類や筋力、年齢など、患者様の個別の事情や症状を考慮し、最も適した術式を選択しています。ここでは当院で採用している代表的な2つの術式を紹介します。
鏡視下解剖学的四辺形BTB再建術)
前十字靭帯は、前方内側束と後方外側束という2つの束から成ります。
通常の手術では、これらを一つの束として再建しますが、この手術では2つの束を別々に再建するのが大きな特徴です。
具体的には、移植腱の両端をエンドボタンという小さなチタン製のボタンやスクリューで固定をします。
この手術法には、主に次のようなメリットがあるといえます。
メリット
- 自然な膝の動きを再現できる:2つの束を別々に再建することで、靭帯をより自然に近い状態にできます。そのため、他の方法で手術した場合よりも不安定さや違和感を覚えにくいでしょう。特に膝を屈曲する際に、自然な動きをしやすくなるはずです。
- スポーツをする方に向く:負傷前の自然に近い状態にできるため、特にスポーツをする方に適した方法といえます。膝を安定させやすいので、多少激しい動きも気にならずにできるでしょう。
ただし、難易度の高い方法であり、医師の技術の高さが求められる手術でもあります。
鏡視下解剖学的四辺形BTB再建術(きょうしか かいぼうがくてき しへんけい BTB さいけんじゅつ)
「BTB」とは「Bone-Tendon-Bone」の略であり、「骨-腱-骨」という意味です。
膝の前にあり、膝のお皿の骨である膝蓋骨(しつがいこつ)とすねの骨である脛骨を結ぶ膝蓋腱(しつがいけん)を移植します。
膝蓋腱は、両端が骨についている「骨-腱-骨」の状態で存在する組織です。
この膝蓋腱の中央部分を、上下の骨片をつけた「骨-腱-骨」の状態で採取し、移植します。
この手術法には、主に次のようなメリットがあるといえます。
メリット
- 膝が安定しやすい:腱が骨とくっついた状態で移植するので、本来の形に近い形に再建できます。そのため、膝の安定感は高いといえるでしょう。
- 強度が高い:骨と骨の癒合であるため、強度の高さが期待できます。
- スポーツをする方に向く:強度の高さから、競技復帰も他の方法より早くできる可能性が高いといえます。安定しやすくもあり、スポーツをする方に適した方法です。
ただし、膝蓋腱を採取するため、膝の前部に違和感が残る可能性があります。
痛みや不快感がある場合もあり、適切なリハビリをしっかり行わねばなりません。
当院では関節鏡技術認定医が治療を行います
当院は、関節鏡技術認定制度の認定医が在籍する医療機関です。
認定医は関節鏡手術の分野で高度なトレーニングをし、専門知識を備えています。
関節の複雑な構造についても深い造詣があり、正確な診断が期待できるはずです。
さらに、細かい操作が必要な手術も適切に行えるだけの技術も備えています。
手術による傷が小さくて済むことも多く、日常生活はもちろん、競技への復帰も早まるでしょう。
当院の特徴
01
スポーツ整形外科や膝、
肩を中心とした豊富な手術実績
2015~2019年で1,000件以上の手術を実施!
専門性の高い関節鏡視下手術にも対応
当院では、膝関節および肩関節の専門医が在籍し、過去5年間でスポーツ整形外科や膝、肩の手術を1,000例以上実施しています。さらに、専門性の高い鏡視下手術にも対応し、膝の鏡視下手術では、民間医療機関では数少ないJOSKAS(日本膝関節鏡)の関節鏡技術認定者が在籍しています。

02
医療×介護の連携!
当院で一貫して対応!
早期の日常生活への復帰をサポート
当院では、周辺地域にお住まいの方の心身ともに健やかで充実した生活を送っていただくべく、医療のみではなく介護によるサポートも提供しています。併設するヘルスケアブランド「すまいる」と連携することによって、医療と介護の複合的な支援の提供が可能です。

03
医療設備の充実で
高度な検査・治療・リバビリに対応
MRIや体外衝撃波治療器、パワープレート、
その他様々なリハビリ機器を導入
当院では、MRIやデジタルX線装置、超音波診断装置などの医療機器を備え、高度な検査・治療に対応可能です。さらに、体外衝撃波治療装置やその他のリハビリテーション機器、パワープレートなどのマシンを設置したトレーニング施設も充実しており、患者様一人一人に適したリハビリテーションが行える環境を整えております。

04
スポーツに精通した
医師・スタッフが在籍
競技特性に応じた
治療・手術、リハビリを実施
当院では、スポーツ医学を専門とする医師が複数名在籍し、スポーツによる障害の診断や手術、リハビリテーションまで積極的に取り組んでいます。また、理学療法士やスポーツトレーナーを含むリハビリスタッフが、競技特性に応じた治療やリハビリを行い、早期のスポーツ復帰を支援します。

05
大学病院に匹敵!
約20名の理学療法士が在籍
日常生活やスポーツへの
早期復帰を専門スタッフがサポート
理学療法士とは、ケガや病気で身体に障害のある人に対し、「立つ」「歩く」などの基本的な動作の維持・回復を目指し、「運動療法」や「物理療法」を用いて、自立した日常生活が送れるよう支援する医学的リハビリテーションの専門家です。当院では、約20名の理学療法士が在籍しており、高い精度の検査や治療が可能です。

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整形外科河村医院 院長
河村 禎人
スポーツ整形外科や膝関節の治療を専門として努め、一般整形外科以外にも関節の変形による痛みに対してのリハビリなど手術によらない治療にも取り組んできました。
また、前十字靭帯断裂や半月板損傷などの膝関節鏡手術を中心として、スポーツ外傷、障害の手術やリハビリに取り組んでいます。

ジャンパー膝は、膝蓋骨(膝のお皿)の下部からすぐ下の靭帯にかけて痛みが生じます。当院ではスポーツ整形を専門とした医師が在籍し、保存的療法から手術療法・トレーナーによるリハビリまで幅広い治療に対応しています。
